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札幌高等裁判所 昭和24年(新を)433号 判決

控訴人 被告人 松島正道

弁護人 木田茂晴

検察官 伊東勝関与

主文

原判決中被告人に無罪を言渡した部分を除きその余を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

原審における未決勾留日数中六十日を右本刑に算入する。

但しこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用中国選弁護人に支給した部分は被告人の負担とする。

理由

弁護人木田茂晴の控訴趣意は別紙記載の通りであつて、これに対する判断は次の通りである。

第一点について。

自首による刑の減軽は裁判所の自由裁量に任されているのであるから、自首の主張は刑事訴訟法第三百三十五条第二項にいわゆる刑の加重減免の理由となる事実に該当しない。弁護人の指摘するように、被告人が原審において自首の主張をしたものとしても裁判所は検察官に自首の事実について立証を命ずべき旨の規定はないのであつて、原裁判所が自首の事実を認めずまたこれによつて被告人に対し刑を減軽すべきものと認めなかつた以上、原判決においてその判断を示さなかつたのは決して違法でない。

第二点について。

原判決の認定した横領罪の犯状その他原審において証拠とすることができた各証拠及び当審において取り調べた証拠によつて認めうる諸般の情状を考量すると原判決の刑の量定は不当であると信ずるので、刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十一条により原判決中被告人に無罪を言い渡した部分を除きその余を破棄し、なお、当裁判所は訴訟記録及び右各証拠により直ちに判決することができるものと認めるので調査するところ、

原判決が確定した事実を法律に照すと、被告人の判示所為は各刑法第二百五十二条第一項に該当するところ、同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条、第十条により犯情の重い判示第一の罪の刑を加重し、その刑期の範囲内で被告人を懲役八月に処し、同法第二十一条により原審における未決勾留日数中六十日を右本刑に算入する。但し情状により同法第二十五条を適用し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予し、刑事訴訟法第百八十一条、第百八十五条により原審における訴訟費用中国選弁護人に支給した部分は被告人の負担とすることとした。

よつて刑事訴訟法第四百条但書を適用し主文の通り判決する。

(裁判長判事 藤田和夫 判事 佐藤昌彦 判事 河野力)

弁護人木田茂晴の控訴趣意

第一点原審第一回公判調書によれば被告人は本件犯罪は自首して出たのであると主張して居る。即ち問、其事情を被害者に話したか、答、話して居りません、自分の不注意からこんな事になつたのですから自首して出て被害者にお詑びしようと思つて自首したのです、となつて居る。自首は刑の減軽の事由であるから刑事訴訟法第二四五条によつて自首調書を作成し此の調書は検察官に送付しなければならない。検察官は犯罪並に其減軽の理由に付いても主張し立証する責任あることが明らかであり、且つ第一審の裁判官も刑の減軽の事由ある時は之が立証を命ずべき責任あることは自明であろう。然るに原裁判所は被告人の刑の減軽の理由の主張に対しては何等の取調べをしていないことは明かである。

即ち原審は当然取調ぶべき証拠を取調べない訴訟手続き上に法令違反あり、その違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄すべきである。

第二点原判決は公訴事実の第一は無罪、第二、第三は有罪とし懲役八ケ月の実刑を科した。被告人が訴外松本六郎太から委託された甘納豆を代金一万九千余円で売つて右金円の中金一万円は映画見物中掏り取られたので残金はやけを起して費消したのであることは第一回公判で被告人が自白して居るところである。勿論他人の金を横領費消することは非難すべきことであるが其原因が金一万円を掏られたことから原因しているとせば之は同情すべき事実である。又被告人が松本六郎太より借用したオーバーも同じ原因からやけになつて担保に入れて金一千円を借り受けたことが明かであり之も同情すべき事実である。加之被告人は松本六郎太より本件債務に付き昭和二十四年十一月より昭和二十五年十二月末日迄に弁済すれば宜しいことの支払の猶予を受けて居るのであるから此債務を履行する為めには被告人が実刑を科せられては出来ないことである。即ち右の如き事情は被告人に実刑を科するといふことは刑の量定は不当であることになる。

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